「教育充実度」で最高レベルにランクイン

「教育充実度」での結果について、国際教養大学の鈴木典比古学長は「教育充実度が最高レベルと評価されたのは、成長のための苦しいプロセスを、学生たちが乗り越えてきた証。これこそが我々の誇りです」と受け止める。

鈴木学長があえて口にする「苦しいプロセス」とは、入学初日の英語によるオリエンテーションと全寮制のもとでの留学生との共同生活から始まる「全て英語による学修・生活」に加えて、卒業要件として必須である海外留学を含めて毎年住む場所とルームメイトが変わる「異文化環境への適応の繰り返し」を指す。この過程で、学生には努力を継続する向上心や他者へのいたわりが生まれ、自己内省を通じた成長が促されるという。

入学さえすれば卒業は簡単と言われる日本の大学界において、国際教養大学が提供する「学生同士が自ずと切磋琢磨する濃密な学修・生活環境」は明らかに「特異」であるが、これが学生の成長と満足を生み出す最大の理由である。

初年次には学術英語を徹底して身に付ける。
初年次には学術英語を徹底して身に付ける。

「圧倒的な教育の質と量」と「共同生活を通した全人力教育」

国際教養大学は秋田にある小規模な公立大学だが、全国から入学者が集う。英語ができる学生が集まっていると思われがちだが、入学者の9割以上は日本の高校を卒業し、かつその大半は公立高校の出身者である。地方出身の「普通の」高校生を短期間で鍛え上げ、英語力・知力・精神力の全ての面で、グローバル社会で通用する人材に育て上げる、その秘訣は何か。
(参考:卒業時には半数以上がTOEIC(R)900点以上相当、平均896点)

1つには、学生が「生まれてからこれほど勉強をしたことはない」と言うほど勉強することにある。これは毎日宿題をチェックしたり、学修指導を行ったりする教員の情熱なくしては成立しない。24時間365日の開館で有名な中嶋記念図書館には、宿題やグループワークに追われる学生が夕食後に集まり、深夜まで勉強する光景が当たり前となっている。

もう1つは、学生が、常に自己の価値観や自己成長を認識することである。留学生も交え居住空間を共にする中で、お互いじっくり話し合って高め合う環境が、ここにはある。ルームメイトとの生活では、就寝時間など日常のルール作りなどを通して、黙っているだけではだめなのだということを学び、少人数教室では留学生との議論を通じて異文化への理解を深め、更に自身がマイノリティになる留学先では情緒的な成長が育まれる。留学中はそれまで学んだことの「知の統合」も一気に進み、一段上の「知識面と精神面の成長の相乗効果」を生むのだ。

学生全員が、必ずしも入学の時から高い志や、情熱を持っているわけではない。しかし、そんな学生たちも、やがて目の色が変わっていくという。キャンパスに息づく文化が、そうさせるのだ。大学の規模が小さいからこそ、教職員と学生が、ひとつのコミュニティとして一人ひとりの成長を見守っている。「全人力、人間性の醸成、そしてあらゆる価値観から自由になり、新たな自分を構築するという『個』の確立こそ、国際教養大学が提供する教育の本当の強みなのだ」と鈴木学長は力説する。

中嶋記念図書館では、学生が深夜まで勉強する光景が日常的。
中嶋記念図書館では、学生が深夜まで勉強する光景が日常的。

世界の一流校との交換留学が意味するもの

多くの大学が留学を謳う今日、国際教養大学の海外留学制度は際立っている。まず、語学留学ではなく、留学先の大学の専門課程を1年間学び、その取得単位を持ち帰る必要があること。このため、留学前に学生一人ひとりがアドバイザー(教員)と履修予定科目の内容を詳細に確認し、学修の質を担保していること。そして交換留学の制度上、各大学に多くても数人しか派遣できず、日本人だけで群れる機会がないこと。この特徴的な制度は、学生が勉強・生活の両面でタフになり、自信をつかむという効果を生んでいる。

提携校は開学後わずか15年で195校になった。その最大の秘訣は、多文化共生のキャンパスを実際に見に来てもらうこと。治安面で現在は推奨されない国・地域を除いた全提携校の9割と活発な交換留学を実現している。このため、常に欧米を中心に30もの国・地域からの留学生がいることも大きな特徴である。

教育成果は、地方のハンデをものともしない「就職率100%」という実績が証明しており、国内外の一流大学院に進学する学生も増えてきた。「日本の高校生の潜在力は世界トップクラス。それを世界標準の教育制度と異文化環境を持つ国際教養大学で、磨いていってほしい」と鈴木学長。国際教養大学の挑戦は一層加速している。

屋外で行われる授業も少なくない。自由闊達な文化が息づく。
屋外で行われる授業も少なくない。自由闊達な文化が息づく。
学長
鈴木 典比古
鈴木 典比古
すずき のりひこ
1945年栃木県生まれ。1978年インディアナ大学経営大学院博士課程修了、博士号を取得。ワシントン州立大学助教授・准教授、イリノイ大学助教授を経て、1986年から国際基督教大学にて準教授、教授、学務副学長を歴任。2004年~2012年は同大学学長を務める。2013年から現職。経営学博士。