社会の課題解決に全学で取り組む大学へ

世界は今、かつてないスピードで変化している。世の中がどの方向に進むのかは、誰にも予測できない。このような時代を生きる若者には「自分自身が新しい社会を紡ぎ出していくのだ、という気概を持ってほしい」と、東北大学の大野英男総長は語る。そのために東北大学では、学生の「挑戦する心」を受け止め、高いレベルに引き上げる教育・研究環境の充実を図っている。

大野総長によれば、東日本大震災は、学生や教職員一人ひとりが「社会と共にある大学」であることを強く意識する転機になったという。「今では本学のアイデンティティを形成する大切な要素の一つとなり、社会の課題解決に分野を横断して積極的に取り組む組織風土が醸成されました」と話す。

これからも災害復興新生研究機構を中心に、8つの重点プロジェクトと、100を超える復興支援プロジェクトに取り組んでいく構えである。

2017年に東北大学は、指定国立大学法人に指定された。日本を代表する大学として、日本のみならず世界の発展に大きく貢献することを期待されてのことだろう。それを表すかのように、日本版ランキングでは総合1位を獲得。4つの指標分野でも、それぞれ上位ランクインを果たしている。

一貫した教学改革で世界に人材を送り出す

復興支援活動や社会からの期待の中で、東北大学はさまざまな改革に取り組んでいる。

まず教育については、世界を舞台に活躍する若手リーダーの育成のため、学部入試から大学院教育まで一貫した改革を進めている。

学部入試では、一般入試の募集人員比率を下げて、「学力重視のAO入試」などの人員比率を上げるように募集人員の構成を見直した。これにより、一般入試受験者層と同等以上の学力があり、やりたいことが明確で意欲のある入学者を増やす方針だ。AO入試などで一足早く入学が決まった学生に対しては、米国の提携校で2週間程度の研修を受ける入学前教育プログラムを提供する。入学前に海外経験を積むことが、他の新入生によい刺激となることを期待してのことである。

学部教育では、海外留学プログラム、アントレプレナーシップ教育、AIやデータサイエンスについて学ぶ実践教育などの充実を図っていく。

グローバル感覚を育成するためのユニークな取り組みとしては、「国際混住型学生寄宿舎(ユニバーシティ・ハウス)」の設置が挙げられる。日本人学生が外国人留学生と生活を共にすることにより、異文化間の摩擦や課題解決を日常的に体験することができる。2018年10月には「ユニバーシティ・ハウス青葉山」が新たにオープンし、在学生の約10%が寄宿舎での生活を経験できるようになるという。

さらに、大学院教育では、国際共同大学院の展開に力を入れている。海外有力大学との強い連携のもと、共同教育を実践する学位プログラムだ。東北大学が世界を牽引する、あるいは今後重要度が高まり、人類の発展に貢献できる9つの分野を対象としている。参加する学生は6カ月間、海外の大学で海外の研究者と共に研究生活を送り、「自分の能力が世界水準でどの程度か」を体感して帰ってくる。学生が参加しやすいよう、奨学金や海外渡航費の支援も充実させる考えだ。

国立大初の入学前海外研修を2013年度から実施。
国立大初の入学前海外研修を2013年度から実施。

新しいスタイルの産学共創に挑戦

研究については、成果を社会に還元する産学共創の新たな形「B-U-B※」に挑戦している。大学を介して企業と企業を結び、イノベーションを生み出そうとする新しい協働のスタイルだ。大学が高い水準の研究活動をベースとした研究・開発のプラットフォームを提供することで、例えば、国際的な大企業と地場産業の中小企業が手を結ぶことなどが可能となる。2012年に開設した国際集積エレクトロニクス研究開発センターを中心に、国内外から約40社が集まり、スピントロニクスの技術と半導体集積回路の技術の融合研究を進めている。

こうした取り組みを積み重ね、民間共同研究費を2030年までに現在の5倍にまで拡大させる計画である。

「本学を、わが国で最も挑戦的な大学にしていくことが、総長としての私の役割です」と抱負を語る大野総長。学生や教職員と共に、組織として世界を舞台に挑戦し、世界から尊敬される三十傑大学を目指していく。

次世代技術を先導する国際集積エレクトロニクス研究開発センター
次世代技術を先導する国際集積エレクトロニクス研究開発センター
総長
大野 英男
大野 英男
おおの・ひでお
1954年東京生まれ。1977年東京大学工学部卒業。1982年同大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。1983年北海道大学工学部助教授。1994年東北大学工学部教授。2018年4月より現職。専門分野は半導体物理・半導体工学、スピントロニクス。