国立大初の法人統合を実現し東海国立大学機構を創設

日本版ランキングの「教育成果」分野で、前年度の全国58位から38位に順位を伸ばした岐阜大学。力を注いできた課題解決型の人材育成が実を結んだ結果だと、森脇久隆学長は分析する。課題解決のプロセスで必要なのは、①課題発見力 ②課題解決の価値を見極める力 ③解決の先にあるリターンを見通す経済的視点 ④プロジェクト全体をマネジメントする力だ。岐阜大学では、これらすべてに取り組める総合力の養成を目指しており、企業から高く評価されている。

岐阜大学は2020年4月、大きな挑戦に打って出た。国立大学としては初めて名古屋大学と法人を統合させ、大学の新しいモデルと言える「国立大学法人東海国立大学機構」を設立。世界有数の経済圏である東海地域の基幹大学が手を結んだことにより、教育研究のスケールは拡大し、大学を柱とした地域創生と国際化が加速していく。

JR岐阜駅・岐阜大学間を走行するメルセデス・ベンツ製の連節バス
JR岐阜駅・岐阜大学間を走行するメルセデス・ベンツ製の連節バス

大学・産業界・地域がともに発展する3つの取り組み

東海国立大学機構がスタートアップビジョンの中で挙げる主な取り組みは3つ。1つ目が、世界最高水準の研究による知の拠点化だ。まず「糖鎖科学」「航空宇宙生産技術」「医療情報」「農学」分野の拠点を整備し、東海地域のものづくりを支える関連機関とも連携しながら、ハイレベルな研究を推進していく。名古屋大学とは過去にもさまざまな分野で研究者同士が連携し、共同研究を行ってきた。さらに、機構設立後は学部同士が太いパイプでつながり、研究の規模もスピードも格段にアップしている。

2つ目が、世界に通用する質の高い教育の実践だ。両大学の基礎・専門教育を結びつけ、共通のカリキュラムとして発展させるための組織「アカデミック・セントラル」を新設した。豊かな人間性を育むリベラル・アーツ教育は、両大学ともに充実したプログラムを備えているが、共有すれば国内屈指の教育資源となる。また、ハードルが高い専門教育の統一化も、教育課程を体系的に明示する科目ナンバリングが可能な分野では速やかに進んでいる。機構設立から数か月でのダイナミックな展開に、学長自身も驚いているほどだ。

こうした共通教育を支えるのが授業のオンライン化だ。遠隔講義システムを活用した授業を数多く提供するほか、遠隔操作が可能な実験装置の導入も積極的に検討している。近い将来、実習や実験系科目においても、キャンパスをまたいだ授業展開が実現しそうだ。

3つ目には、岐阜大学がこれまで使命としてきた国際社会と地域創生への貢献が掲げられている。大学の知を生かし、多様な産業が集積する東海地域の課題を解決するとともに、ベンチャーの創出や起業家精神を持つ人材の育成を通じて世界に通じる新しい価値を生み出していく。

森脇学長はこう説明する。「すばらしい技術や製品が出来れば、そこに雇用が生まれ、人が集まります。人々は地域の中で結婚・出産し、子どもの成長とともに質の高い教育環境を求めます。もちろん、社会人にとっても学び直す場は必要であり、出産や介護にあたって充実した医療機関や介護施設も欠かせません。住む人々の満たされた暮らしがあってこそ地域創生はかなうもの。すべてのライフステージに貢献することが、大学が担う地域創生の真髄と言えます」。

学生や研究者、教職員が異文化理解を深める場として毎年開催。
学生や研究者、教職員が異文化理解を深める場として毎年開催。

実践的な英語の授業で国際交流の基礎力を養う

ハイレベルな研究は世界へ発信され、強い産業のもとで活気づく地域には海外からも人が集まる。つまり、地域創生と国際化は切り離せない関係にあり、岐阜大学もグローカルの視点から国際化戦略を進めている。

その一環として2018年、全学共通科目である英語の授業運営と管理などを一括して担当する「イングリッシュ・センター」を開設した。「私たちが教えるのは、国際社会で通用する実践的な英語。高校時代に学んだ受験英語とはまったくの別物です」と、センター長のデイビッド・バーカー准教授は話す。

プログラムは「話す」「聞く」「読む」「書く」の4技能を段階的に習得する構成で、学びのアプローチは多彩だ。例えば、単語のアクセントやリズムなどの発音を理解し、リスニング力を高める。語源を学び、深く読み解く力を養う。ごく簡単な単語を使ってネイティブ並みの速さで会話し、流暢さと瞬発力を鍛える。こうした様々な切り口から、学生は学習のコツをつかみ、英語に対する自信と実践力を得ていく。センター開設後、評価基準を見直したため試験の難易度は高くなったが、学生たちの英語学習に対する意識は、以前より前向きになったそうだ。

国際交流において何よりも大切なことは、伝えようとする姿勢だとバーカー准教授は言う。「岐阜大学の卒業生は、国際化が進む東海地域で就職する人が多い。世界を相手にしたときに、英語が得意でなくても堂々と意思疎通が図れる、そんな人材を育てていきたい」。

世界はめまぐるしいスピードで変わり、人々の生活も新しい形が模索されている。岐阜大学は、東海地域に根ざしながらも、世界的な課題を解決する牽引者として、これからも最先端の教育研究を展開し、地域と国際社会の発展に尽くしていく。

【イングリッシュ・センター教員】合言葉は“English for the real world”
【イングリッシュ・センター教員】合言葉は“English for the real world”
学長、医学博士
森脇 久隆
森脇 久隆
もりわき・ひさたか
1976年岐阜大学医学部卒業、1984年医学博士取得。1988年より岐阜大学医学部にて講師、助教授、教授と歴任し、2006年国立大学法人岐阜大学医学部附属病院長に就任。2014年より現職。専門は内科学、消化器病学、肝臓学、腫瘍学。織田賞(日本肝臓学会賞)、日本ビタミン学会賞など受賞歴多数。