学生の熱情がつくった建学の歴史

時は1929年。「学びたい!」と一心に願う学生たちが、教師、校舎、支援者を求めて奔走し、武蔵高等工科学校を創設した。後の東京都市大学である。

それから1世紀近く経った今も、「学生の情熱」を尊重する気風は脈々と受け継がれている。学校としての規模は格段に大きくなった。武蔵工業大学となったのち、2009年には東横学園女子短期大学と統合。教える内容も理工学系にとどまらず、文理融合系、文系と広がった。今では、理工学部、建築都市デザイン学部、情報工学部、環境学部、メディア情報学部、都市生活学部、人間科学部の7学部と二つの研究科を有し、最新のテクノロジーから生活に根差す福祉分野まで、幅広い領域を網羅する大学となっている。

新7号館の外観。経済産業省 ZEB実証事業 にも採択されている。
新7号館の外観。経済産業省 ZEB実証事業 にも採択されている。

出会い、語らう、広場のような、開かれたキャンパス

東京都市大学では、キャンパスの大規模リニューアルが進んでいる。メインキャンパスである世田谷キャンパスの実に3分の1を更新する「東京都市大学キャンパス再整備事業」だ。

同事業は、創立100周年に向けた中長期計画「アクションプラン2030」の一環である。節目の年を前に、より良質な学修環境を整え、大学運営の更なる効率化を図るとともに「教育研究上のシナジー創出」(相乗効果)も目的だ。

2019年4月に開設した国際学生寮の完成に続き、この春には、1・2階の共用エリアと3・4階の研究エリアから成る新7号館が竣工した。共用エリアの中心は、500名収容可能な大型の多目的ホール。大教室として使用するだけでなく、PBL(プロジェクト型学習)教室、展示やイベントスペースなど、さまざまな用途でフレキシブルに活用する。大きな吹き抜けが開放的な新7号館には、カフェ、ラーニングコモンズ(学習支援施設)、広々とした多目的スペースなども備わっている。思い思いに過ごす学生たちで常に賑わう同館は、人が集う広場や町のようなイメージだ。

「目指したのは、『開かれたキャンパス』です。学生も教員も自由に行き交って、人々が出会い、のびのびと語り合えるキャンパスが理想です」と、三木千壽学長は思いを語る。

2022年8月に竣工(第1期工事)した理工学系教育・研究の新拠点、新10号館にも「開かれたキャンパス」の理想が、盛り込まれている。研究活動や実験の様子が見えるオープンラボでは、分野横断的な研究にも弾みがつきそうだ。研究室や実験室はユニット化され、研究分野の多様な進化にも対応可能。サステナビリティにも配慮されている。

「開かれたキャンパス」は、大学の敷地の外にも及ぶ。地域の防災拠点としての機能はもちろん、周辺住民の回遊動線を取り込んでキャンパス内の通路を整備したことで、大学と地域との距離はまた少し縮まった。敷地内を散歩し、カフェで寛ぐ住民の姿が、キャンパスに温かな雰囲気を添えている。

新10号館の内観イメージ。交流や相互刺激が生まれる環境が整う。
新10号館の内観イメージ。交流や相互刺激が生まれる環境が整う。

知識集約型社会に向け、総合知を育むプログラム

カリキュラムについても、開学以来最大の改革が進展中だ。その代表例が、「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラム。学部の枠や、大学教育への固定概念を取り払ったプログラムで、2020年、文部科学省の「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択された。

価値の中心が、モノからサービスへと移り、AI、IoT、ビッグデータ等が主役の現代社会は「知識集約型社会」と言われる。大学での学びも、社会や産業の変化に対応する新しい教育プログラムの展開が必須。しかし、従来の教育では従来型の人材しか育たない。そうした考えを背景に誕生したのが「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラムだ。

プログラムは4つのカテゴリーで構成されている。①理工学部の3学科(機械工学科・機械システム工学科・電気電子通信工学科)を横断した専門科目「ものづくり」、②③文理融合の授業科目「ひらめきづくり」・「ことづくり」、④社会課題やグローバル化に対応したテーマ型教養科目中心の「ひとづくり」。これに「AI・ビッグデータ・数理・データサイエンス」の科目群を加え、文系理系の枠組みを超えた「統合的な学び」を実現した。授業は問題発見や課題解決にフォーカスし、ディスカッション主体で進む。知識集約型社会で活躍する人材には、高い専門性や技術以外に、発想力や提案力といった人を巻き込み新しいことを始める力が欠かせないのだという。

「知識集約型社会の課題や、これまでにない新しい分野に挑戦するとき、個々の専門家がバラバラに問題解決に取り組むより、みんなの『得意』を持ち寄るほうが大きな力となる。画期的な発想も生まれやすくなります。総合知は、全体最適解を導くのです」と三木学長は言う。

プログラム初年度は、応募者から選ばれた約110名が参加したが、段階的に規模を拡大し、2024年度には、全学的な展開となるもようだ。

2023年4月には、新たにデザイン・データ科学部が開設される。データサイエンスを礎とする分析力と創造力を兼ね備えたイノベーション人材の育成を目指す。

「大学は実社会との接点であり、最も重要なのは、入学から卒業までの間にどれだけ成長し、能力を伸ばせるかです。自らの限界を決めず、時間をかけて、本当にやりたいことを探してください。意欲ある君たちの成長を、本学は力いっぱい応援します」。全国の高校生にそうエールを送り、学長は言葉を結んだ。

「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラムの授業風景。
「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラムの授業風景。
学長
三木 千壽
三木 千壽
みき・ちとし
工学博士(東京工業大学)1972年東京工業大学大学院博士課程土木工学専攻退学。東京工業大学教授、同工学部長を経て、同大副学長。2012年に東京都市大学総合研究所特任教授就任。2015年より現職。専門は構造工学、鋼構造学、橋梁工学。土木学会論文賞、土木学会田中賞、土木学会出版文化賞、溶接学会業績賞、日本鋼構造協会協会賞などを受賞。著書に『橋梁の疲労と破壊 事例から学ぶ』(2011年/朝倉書店)など。