大学の産学官連携の役割
産学官連携は、文部科学省によって推進されている、企業(産)、大学(学)、行政(官)の連携による「大学の活性化と社会の発展」をめざす制度です。産学官連携が重視されるようになった背景は、各者にさまざまな利点があるためです。
<各者のメリット>
【企業】情報技術の進化やグローバル化など、変化に柔軟に対応できる企業経営ができる
【大学】時代の変化に合わせて、企業のニーズに沿う想像力豊かで創造的な人材を育成できる
【行政】企業と大学の共同研究等の成果が地域活性化につながる
産学官連携の活性化をめざし、国は国立大学法人化など、国を挙げた大学制度改革や、企業と連携しやすい制度作りを進めています。これにより、大学での学修や研究に新しい価値がもたらされています。
産学官連携は、文部科学省によって次の5つの形態に分類されています。
1【研究面】企業と大学等との共同研究、受託研究
2【教育面】企業でのインターンシップ、教育プログラム共同開発など
3【技術移転活動】大学の研究成果に関する技術移転活動
4【コンサルタント】兼業制度に基づく技術指導など研究者によるコンサルタント活動
5【起業】大学の研究成果や人的資源に基づいた起業
それぞれの活動は独立して行われるのではなく、相互に密接に関連しています。また、これらの形態のうち、どの活動に重点的に取り組むかは各機関の個性・特色に応じた戦略的判断に委ねられています。
産業界からの収入が高い大学は?
THE世界大学ランキング2019(以下、世界ランキング2019)には、「産業界からの収入」という指標分野があります。様々な大学が企業や自治体等との連携を強化している中、「産業界からの収入」分野でランクインした日本の大学は103校あります。このうち、上位にランクインした大学の産学官連携に関する取り組みを見てみましょう。
明治大学
明治大学は、世界ランキング2019の「産業界からの収入」分野で国内4位です。明治大学では“「明治」の研究成果で未来を知る”をモットーに2003年7月に設置された「研究活用知財本部」が、企業との連携を促進しています。
明治大学研究活用知財本部は、技術移転を通じた研究環境の充実と、産業界をはじめとする全国の地域や住民などへの研究成果の還元を目的に活動しています。最も多くの共同研究・受託研究が行われているのは理工学部と農学部で、2017年度は全学部合わせて120件の共同研究、93件の受託研究が行われました。
実用化された研究例として、「エイジングシート」を利用した日本初の「発酵塾成熟鮮魚」製造などが挙げられます。「エイジングシート」はベンチャー企業との共同研究によって開発されました。日本人の魚消費量の低下や、国内の魚市場の混迷状況を打開するために開発され、安定した性質の発酵熟成肉の製造を可能にしました。
このように産学官連携の成果は、私たちの生活の身近な分野でも実際に役立っています。
順天堂大学
「産業界からの収入」分野において、日本の大学で19番目に高いスコアの順天堂大学は、大学の研究者が学術・研究活動を円滑に推進できる環境を整えることを目的として、「研究戦略推進センター」を設置しています。
近年、共同研究、受託研究数ともに大幅に増加、2017年度は103件の共同研究、256件の受託研究が行われました。
さまざまな研究の中でも、特に文部科学省や、様々な公益財団の助成のもと実施された「骨髄増殖性腫瘍」に関する研究は、国際的にも大きな注目を集めています。研究成果である「骨髄増殖性腫瘍の発症メカニズムの解明」に関する論文は、米国血液学会誌「Blood」において、2016年のトップ10論文として選出されるなど、国内外で高い評価を得ています。この研究成果によって、これまで根本的な治療法がなかった骨髄増殖性腫瘍に対する効果的な治療薬の開発が見込まれています。
東京都市大学
「産業界からの収入」分野において国内34位の東京都市大学には、技術相談、試験・分析、受託研究、共同開発などの推進を目的に、2000年4月に「産官学交流センター(CSAC: Center for Socio-Academic Cooperation)」が設置されました。
東京都市大学は、組織的な連携が成果につながり、産学官連携は年々増加しています。2017年度は68件の共同研究、178件の受託研究が行われました。
産学官連携の例としては、都営交通と連携した「東京さくらトラム(都電荒川線)の軌道敷きにおける緑化実証実験」が挙げられます。日照等が良好な箇所の軌道における植栽の生育状況等を確認し、軌道緑化が環境面でどのような効果をもたらすかについての研究が進められています。
このように、各大学が産学官連携を推進した成果は、私たちの生活に大きく関わる部分でも役立てられています。多くの大学で企業との共同研究、受託研究数が増加傾向にある中、これから生まれてくる実用的な研究に期待が高まっています。