インパクトランキングの概要と、新しく追加されたSDGの解説
イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(以下、THE)は、2020年4月22日、THE大学インパクトランキング2020を発表しました。これは、国連のSDGs(持続可能な開発目標、エスディジーズ)をもとに、大学の社会貢献度をランク付けしたものです。
SDGの分野別ランキングでは、SDGそれぞれに関してランク付けされているため、ランクイン大学は、THE世界大学ランキング2020などのランキングとは違った顔ぶれになっています。
THE大学インパクトランキング2020には、2019版のランキングにはなかった6つのSDGが新しく追加されました。この記事では、そのうち、「SDG1 貧困をなくそう」「SDG2 飢餓をゼロに」「SDG6 安全な水とトイレを世界中に」に焦点を当て、THE世界大学ランキング2020では1000位までにランクインしなかった大学のうち、大学インパクトランキング2020にランクインした国公立大学をいくつか取り上げます。
「SDG1 貧困をなくそう」で特筆すべき国公立大学
THE世界大学ランキング2020で1001+の国公立大学が、インパクトランキング2020の「SDG1 貧困をなくそう」に5校ランクインしました(表参照)。
「SDG1 貧困をなくそう」は、次のような指標をもとにしています。
・研究(27%)
貧困分野についての論文の被引用指数、貧困に関する出版物の数、歳入の低い国の研究者との共著研究の割合
・経済的支援を受けている学生の割合(27%)
・大学の反貧困プログラム(23%)
国で下位20%の世帯収入の学生を入学および卒業、修了させるための施策、貧しい学生の生活支援、歳入の低い国からの学生への支援など
・コミュニティの反貧困プログラム(23%)
地域社会における持続可能なビジネスの始動を支援するための教育的または資源的な支援、貧困を終わらせるための地域や国家・グローバルにおける政策決定への参加など
ここでは、93位タイにランクインした山口大学の取り組みを紹介します。
山口大学では、2007年制定の山口大学憲章や教育目標において、貧困や飢餓、戦争、環境破壊といった社会問題を挙げ、これらの問題解決への寄与を目指すことを掲げています。
経済学部では、国際協力について研究・教育を行っています。戦前から東アジア研究を行う東亜経済研究所を持つ経済学部で、学生は、経済学の基本や国際経済などを幅広く学ぶことができます。また、独立行政法人国際協力機構(JICA)の元職員など、発展途上国の現状に詳しい教員も多く在籍しています。
また、学生主体のプログラムも盛んです。「文榮堂×山口大学 地方創生プロジェクト」では、山口県で書店を営む株式会社文榮堂と組み、経済学部の学生が、書店をテーマにした地域活性化プロジェクトに取り組んでいます。さらに、国際総合科学部の卒業研究では、テーマごとに少人数のグループでPBL(課題解決型学修)に取り組み、学生たちはNPO法人「フードバンク山口」など地元の活動に触れています。
「SDG2 飢餓をゼロに」で特筆すべき国公立大学
日本はインパクトランキング2020の「SDG2 飢餓をゼロに」にランクインする大学が多く、合計で11校に上りました。そのうち、THE世界大学ランキング2020で1001+の国公立大学は、8校ランクインしました(表参照)。
「SDG2 飢餓をゼロに」は、次のような指標をもとにしています。
・飢餓に関する研究(27%)
被引用スコア上位10%以内の学術誌に載った論文の割合、論文の被引用指数、出版物の数
・学生の飢餓(23%)
学生の食料供給に対するプログラム、キャンパス内にすべての人にとって持続可能な食料選択があることなど
・食糧持続可能性についての学位を得た卒業生の割合(23%)
・国の飢餓(27%)
地域の農業従事者や食料生産者に食の安全や持続可能性についての知識や技術を提供したり、その機会となるイベントを開いたりすること、地元の持続可能な資源から優先的に食料を購入することなど
ここでは、鳥取大学の取り組みを見ていきましょう。
鳥取大学では、鳥取県の地形を生かした乾燥地の研究が多く行われています。また、それに関連した飢餓対策のプロジェクトがあります。例えば、植物成長の数値モデルと天気予報から理想的な灌漑を行うシステムについて、鳥取大学内およびアフリカで実験を行う研究や、乾燥や高温に耐性があるうえに高品質で栄養価の高いコムギの品種に関する研究などが行われています。
鳥取大学は農学部を有し、食料に関するさまざまな研究・教育も行っています。
農学部の教員・学生の研究の場であるフィールドサイエンスセンターでは、地域の人々に情報を発信。ナシを中心に果樹生産者を対象とした公開講座を実施するほか、地域の子供たちを対象とした森林教室や食農教育なども開催しています。
「SDG6 安全な水とトイレを世界中に」で特筆すべき国公立大学
THE世界大学ランキング2020で1001+の国公立大学が、インパクトランキング2020の「SDG6 安全な水とトイレを世界中に」に7校ランクインしました(表参照)。
「SDG6 安全な水とトイレを世界中に」は、次のような指標をもとにしています。
・清潔な水と衛生に関する研究(27%)
被引用スコア上位10%以内の学術誌に載った論文の割合、論文の被引用指数、出版物の数
・水の使用(19%)
・水の管理(23%)
下水の処理、学生や教職員、来校者への無料飲用水、水の使用を最小限にとどめるための建築基準など
・水の再使用や再利用(12%)
・コミュニティの中の水(19%)
地域への良い水の管理についての教育機会の提供、キャンパス内やより広いコミュニティでの水使用への関心を向上する、水の安全に関して地域や、国家や、グローバルな政府と協力するなど
ここでは、横浜国立大学の取り組みを見ていきましょう。
横浜国立大学では、さまざまな学部や研究院で、水に関する研究を行っています。特に、都市科学部や環境情報研究院・環境情報学府における、水域生態、海洋システム、生物海洋、水環境などの研究・教育が特徴的です。例えば、水の中に棲む微生物や、海洋環境の変化、物質循環などを扱っています。また、工学研究院では、水環境保全プロセス、水環境汚染対策、洗剤や界面活性剤の研究を行っています。
横浜国立大学は、大学内での節水を心がけるなど、水環境への取り組みにも積極的です。また、「横浜『うみみらい』プロジェクト」として、大学教員や学生有志が、横浜の海をテーマに活動を繰り広げています。海辺の街として、海を楽しむためのまちづくりや、きれいな海や海産物の再生、海から得られるエネルギーの利用などについて、研究や意見交換をするものです。
THE大学インパクトランキング2020には、この記事で取り上げた以外にも、日本の大学が数多くランクインしています。
興味を持った方は、記事下の関連リンクより、ランキングページをご覧ください。