インパクトランキングの概要と、新しく追加されたSDGの解説

 イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(以下、THE)は、2020年4月22日、THE大学インパクトランキング2020を発表しました。これは、国連のSDGs(持続可能な開発目標、エスディジーズ)をもとに、大学の社会貢献度をランク付けしたものです。
 SDGの分野別ランキングでは、SDGそれぞれに関してランク付けされているため、ランクイン大学は、THE世界大学ランキング2020などのランキングとは違った顔ぶれになっています。
 THE大学インパクトランキング2020には、2019版のランキングにはなかった6つのSDGが新しく追加されました。この記事では、そのうち、「SDG7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「SDG14 海の豊かさを守ろう」「SDG15 陸の豊かさも守ろう」に焦点を当て、THE世界大学ランキング2020では上位ではなかったが、大学インパクトランキング2020にみごとランクインした国公立大学をいくつか取り上げます。

「SDG7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」で特筆すべき国公立大学

 「SDG7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、次のような指標をもとにしています。
・利用可能でクリーンなエネルギーに関する研究(27%)
被引用スコア上位10%以内の学術誌に載った論文の割合、論文の被引用指数、出版物の数
・クリーンエネルギー方策(23%)
新築またはリノベーション工事はエネルギー効率基準に則るという方針、カーボンマネジメントや二酸化炭素の排出削減手順、石炭や石油といった炭素偏重のエネルギー生産からの脱却についての方針など
・エネルギー消費(27%)
・エネルギーとコミュニティ(23%)
地域社会に向けたエネルギー効率とクリーンエネルギーの重要性を学ぶプログラム、地域の産業にエネルギー効率とクリーンエネルギーの発展をめざす取り組みを行う、政府の政策立案のためにクリーンエネルギーやエネルギー効率的な技術の情報提供と支援を行うなど

 ここでは、201-300位にランクインした三重大学の取り組みを紹介します。
 古くから公害問題などに貢献してきた三重大学では、「環境先進大学」を掲げ、国立大学法人の発足当初から大学全体で環境への取り組みを行っています。
 SDGsに関する大学としての社会貢献にも積極的です。例えば、「科学的地域環境人材(SciLets:サイレッツ)育成事業」は、環境に関するeラーニングおよびテストを運営し、受講者に資格を認める取り組みです。三重大学の学生以外でも資格取得可能です。教材の内容は、エネルギー技術や環境問題、コミュニティなど幅広い分野にわたります。地域、社会において環境に関する知識を広める活動といえます。
 また、キャンパス内に太陽光発電、風力発電、ガスコージェネレーションの設備があるほか、蓄電池やLED電球の利用でエネルギー消費を抑え、エネルギーマネジメントシステムを導入して効率的な活用を行っています。
 さらに、環境に配慮した取り組みをすると「MIEUポイント」が貯まり、貯まったポイントを文具や雑貨と交換できるという制度があります。節電や自転車の利用などの活動に応じてポイントが貯まるため、学生や教職員が進んで省エネルギーを行えるような取り組みだといえます。

「SDG14 海の豊かさを守ろう」で特筆すべき国公立大学

 「SDG14 海の豊かさを守ろう」は、次のような指標をもとにしています。
・水中の生物に関する研究(27%)
被引用スコア上位10%以内の学術誌に載った論文の割合、論文の被引用指数、出版物の数
・水生生態系に関連する教育(15.3%)
地域や国のコミュニティへ淡水生態系について教育するプログラム、乱獲や規制外の漁業、漁業での破壊的行為への注意喚起のためのアウトリーチ活動など
・水生生態系への支援(19.4%)
水域の保護または持続可能な利用を目指すイベントを支援または開催する、キャンパス内のシーフードは持続可能な生産によることを保証する方針、水生生態系へのダメージを防止した海洋生産を支援する技術または実践への取り組みなど
・水に配慮した廃棄物処理(19.3%)
水の排出のための水質基準とガイドライン、キャンパス内でのプラスチックごみ減量計画、海洋汚染の防止・減量方針
・地域の生態系の保全(19%)
水生生態系の物理的、化学的、生物学的改変を最小化する計画、水生生態系の健康をモニタリングする、共用の水生生態系を保全するために地域のコミュニティと協働するなど

 ここでは、琉球大学の取り組みを見ていきましょう。
 琉球大学は、理学部海洋自然科学科を有し、海や海の生き物について教育・研究しています。海洋自然科学科は、化学系と生物系に分かれています。化学系では、地球の温暖化とサンゴ礁との関係に関する研究、海洋生物に含まれる生理活性物質の研究などを行っています。生物系では、サンゴ礁の生物や魚類、藻類、刺胞動物などについての研究を行っています。亜熱帯の気候で、研究のフィールドとなる海に近い琉球大学の地理的条件を生かした研究だといえるでしょう。
 「SDG14 海の豊かさを守ろう」に関する研究も多く行われています。例えば、海洋自然科学科の池田教授による「海の霊長類」養殖化のための基礎研究では、これまでほとんど養殖されてこなかった頭足類(イカ・タコ)について、成長や養殖の可能性を調査しています。また、工学部工学科の藤井教授による海洋レーダの研究開発では、海水面の動きを計測する技術を用いて、サンゴ礁海域での微細流動を把握し、サンゴ卵稚子の流れ、赤潮の予測、波浪および海上風の計測に役立てることを目指しています。このような取り組みが海の生態系の保全につながり、「SDG14 海の豊かさを守ろう」においてスコアを得たと考えられます。

「SDG15 陸の豊かさも守ろう」で特筆すべき国公立大学

 「SDG15 陸の豊かさも守ろう」は、次のような指標をもとにしています。
・陸の生物に関する研究(27%)
被引用スコア上位10%以内の学術誌に載った論文の割合、論文の被引用指数、出版物の数
・陸の生態系に関する教育(23%)
陸地の保護または持続可能な利用を目指すイベントを支援または開催する、キャンパス内の食料は持続可能な生産によることを保証する方針、地域または国のコミュニティへ生態系についての教育プログラムを行うなど
・陸の生態系への支援(27%)
陸地の保護または復元や持続可能な利用を目指すイベントを支援または開催する、大学の運営により影響を受ける絶滅危惧種の識別やモニタリング、保護を行う方針、共用の陸地の生態系を保全するために地域のコミュニティと協働するなど
・土壌に配慮した廃棄物処理(23%)
水の排出のための水質基準とガイドライン、キャンパス内でのプラスチックごみ減量計画、有害物質を含めた廃棄物処理の方針

 ここでは、信州大学の取り組みを見ていきましょう。
 信州大学では、農学部で、陸の動植物について教育・研究を行っています。バイオテクノロジーを学び機能性食品や医薬品の開発を目指す「生命機能科学コース」、細胞レベルから個体や群まで動物科学を扱う「動物資源生命科学コース」、農作物や園芸作物を実践的に扱う「植物資源科学コース」、山岳・森林域や農山村・居住域での人と自然との関わりを扱う「森林・環境共生学コース」の4コースがあり、幅広い分野にまたがります。
 さらに、希望するすべての学生を対象とした全学横断プログラム「環境マインド実践人材養成コース」を実施しています。「環境マインド実践人材養成コース」で、学生はSDGsの考え方を、信州大学の研究に絡めて学ぶほか、環境問題を題材に課題解決能力を養います。
 また、山岳科学研究拠点を設置し、日本の山岳での生物多様性について研究を進めています。主に寒冷・高山環境に生息する野生生物についての研究が行われています。日本アルプスに近い信州大学の地理的条件を生かした研究といえます。

 THE大学インパクトランキング2020には、この記事で取り上げた以外にも、日本の大学が数多くランクインしています。
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