「緊急措置」で終わらせず、今ならではの学修効果を
コロナ禍による海外渡航の制限は、日本人学生のグローバル教育に大きな打撃を与えた今回、その影響が深刻な「全員留学」制度を設ける国際教養大学、武蔵野大学、近畿大学に対応を取材した。
以下にまとめた通り、3大学はいずれも、渡航制限が緩和され次第、留学に行けるしくみを準備するとともに、留学の代わりとなる学修プログラムを提供している。
渡航前に留学を中止した武蔵野大学グローバル学部グローバルコミュニケーション学科は、留学先のオンライン授業と併せて、アフターコロナ時代のグローバル人材像を検討し、新たな目標を設定する特別研修を実施。研修後の学生から「この状況だからこそ考えられること、できることがわかった」「全てを留学先で行おうと考えていたが、今後は国内の学習にも自覚的な姿勢で臨みたい」と、学びの意味を捉え直す声が挙がったという。
近畿大学国際学部グローバル専攻の留学は、ELS(※1)が提供する授業をまず学内で、次いでアメリカで受けるしくみだった。渡航延期を受けて大学は、学内授業を担当するELS講師に継続勤務を要請。留学先とほぼ同じ語学プログラムを学内で提供した。
国際教養大学は、留学の代替プログラムを新たに策定。国内インターンシップとMOOCs(※2)を組み合わせ、学生自らが学びを立案・実行するもので、全員留学同様、学生が自分の進む道を切り拓くことを強く促すものとなっている。
3大学とともに、これら国内プログラムを受講したうえで留学を経験した学生の成長にも期待する。語学力や課題解決力、将来のキャリア観などが底上げされた状態で、留学に臨むことになるからだ。
※1 英語学習等を提供する留学生受け入れ機関の一つ。全米およびカナダの大学のキャンパス内に30以上のセンターを持つ
※2 Massive Open Online Course(大規模公開オンライン講座)
「全員留学」制度のある大学はどうしてる?①国際教養大学
THE世界大学ランキング日本版2020 10位
外国人学生比率 24.5%
留学比率 20.4%
英語講座比率 77.6%
海外協定校 185校
全員留学の内容
■対象学部(入学定員)
国際教養学部(175人)
■狙い
自らの学びをデザインし実践する力や、異文化の環境でもまれ、知識だけでなく、全人格的な「人間力」を身に付けることなどが狙い
■時期や行き先など
期間は1年間。時期は個々で異なるが、主に2年次冬か3年次秋から。留学先は、50の国・地域にある200の提携校の中から、学生の希望を基に成績や志望理由などで選考して決定
コロナ禍の中での対応
■対応内容
留学中の学生は、ほぼ全員が2020年1月~2月に帰国。春学期は留学先のオンライン授業を自宅などで受講。秋学期は留学先と自学の授業を選択できるようにしたが、時差の関係で、多数が自学の授業を受講した
非常時対応として、以下のいずれかの場合は1年間の留学を行ったと見なす
① 留学を1学期間経験して帰国
② 海外提携校の授業をオンラインで1年間受講
③ インディベンデント・スタディ(※)を履修
上記の場合も、再度留学に赴くオプションを選択できるように準備中
※インターンシップとMOOCs履修を組み合わせながらテーマや活動内容を自分でデザインする学び。2020年12月から履修登録受け付け
■対応の背景
就活や卒業を不安視する学生や保護者の声があり、苦渋の決断として留学の代替プログラムを準備。インディベンデント・スタディでは、留学の狙いと同等レベルのアウトプットを学生に求めている
■今後について
「留学先で全人格的にもまれること、現地で身を置いて学ぶことの大切さが改めて浮き彫りになった。一方で、距離を越えて著名な研究者に講演してもらうなど、オンラインだからできることも経験した。その利点を取り入れ、対面と併用し学びを強化していきたい」
(熊谷嘉隆理事・副学長 談)
「全員留学」制度のある大学はどうしてる?②武蔵野大学
THE世界大学ランキング日本版2020/151-200位
外国人学生比率 7.2%
留学比率 2.9%
英語講座比率 4.5%
海外協定校 66校
全員留学の内容
■対象学部(入学定員)
グローバル学部
グルーバルコミュニケーション学部(165人)
■狙い
語学力の向上と異文化体験を通した、人間的成長を期待
■時期や行き先など
2年次前期に5か月間、アメリカに留学(約12か所に分散)。ホームステイ形式。事前学習では、留学先の地域・文化などを調べ、目標設定や行動計画を立案。事後学習では、振り返りを基に自己のキャリアを考える
コロナ禍の中での対応
■対応内容
現2年生は留学を延期し、英語の授業等を受講していたが、最終的に留学中止を決定し、特別研修を開催。予定していた北米講師による授業を実現するため、本年2月にELSカナダとつなぎ1か月100時間のオンラインプログラムを双方向型で実施。その後にキャリアプログラムも提供。状況が許せば、3年次後期に希望者が留学に参加できるプログラムを準備する意向
現1年生は、3年次春(2022年春)に留学を延期。2年次前期は、留学後に受講予定だった科目を一部前倒しして実施。事前学習の内容を、これまでの地域研究からグローバル企業研究に変更して、帰国後すぐに就活に臨めるようにする
■対応の背景
前年度、全員留学を経験した第1期生の成長がめざましく、本年度も限界まで留学を実現する道を探った。キャリア形成につながる留学が特徴なので、中止決定後は語学だけでなくキャリア教育の面でもフォローを行った
■今後について
「現地に行く意義は極めて高い。当初予定の留学より短期間になったとしても、リアルな異文化体験ができる機会を何らかの形で設けたい。留学プログラムを通した学生の成長の可視化を進めており、データを検証してプログラムの改善・向上に努める」
(古家聡学科長 談)
「全員留学」制度のある大学はどうしてる?③近畿大学
THE世界大学ランキング2021 801-1000位
同アジア版2020 =172位
同日本版2020 =75位
外国人学生比率 1.8%
留学比率 2.3%
英語講座比率 2.4%
海外協定校 252校
全員留学の内容
■対象学部(入学定員)
国際学部(500人)
■狙い
主な狙いは語学学習や異文化体験
■時期や行き先など
1年次後期から1年間留学。グローバル専攻は、アメリカの大学等に9月から4、5月まで。東アジア専攻中国語コースは、中国か台湾の大学に9月から7、8月まで。東アジア専攻韓国語コースは、韓国の大学に9月から8月まで
コロナ禍の中での対応
■対応内容
現2年生は、2020年3月に留学を中断して帰国。残りのプログラムはオンラインで受講し、プログラムを修了
現1年生については、グローバル専攻は、出発を2021年4月(語学留学)または9月(学部留学)に延期。1年次後期は、留学先のELSで予定されていたものとほぼ同様のカリキュラムによる、少人数・対面授業をキャンパス内にて実施。東アジア専攻は、中国、台湾、韓国の感染状況および留学ビザの発給状況などを考慮しつつ2021年1月以降出発を延期。1年次後期は、現地の大学の授業をオンラインで受講
説明会や文書を通して、学生・保護者にタイムリーに情報提供
■対応の背景
語学教育の他、早期の異文化理解・留学体験による学びを重視しており、従来同様、実際に海外に学生を送り出したいと考えている。そのため、中止ではなく「延期」としている。さらに延期となった場合の対応は検討中
■今後について
「留学時期の入れ替えはあっても、トータルとして4年間のカリキュラムを壊さないようにしたい。現1年生は、語学は現地留学と同様の内容を提供できているが、異文化体験が不足。現2年生は、改めて留学した際に単位を認定するなど、柔軟に対応する」
(藤田直也学部長代理 談)
補足
外国人学生比:2018年度の在籍外国人学生数/在籍学生数
日本人学生の留学生比率:2018年度の留学者数/在籍学生数
外国語で行われている講座の比率:2018年度に外国語で行われた科目数(語学を除く)/全科目数
海外の大学との大学間交流協定数:文部科学省「海外の大学との大学間交流協定(平成28年度)」一覧の掲載数
※掲載されているデータはTHE世界大学ランキング日本版2020のものです。最新データは各大学のホームページ等でご確認ください。
※この記事は「Between」2021年1-2月号より転載。