地元企業の世界的発展を支えてきた歴史の重み

2014年ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏の母校としても知られる徳島大学は、1949年に新制大学として発足し、今年創立70周年を迎える。

徳島では、江戸期から明治期にかけて栄えた藍産業によって蓄積した経済力を礎に、鳴門の塩田に由来する化学・薬学系の産業が興った。大塚製薬や日亜化学工業など、徳島に発してグローバル企業に成長した企業も少なくない。その発展の背景には、高い研究力と研究に欠かせない設備を持つ徳島大学が、ソフト・ハードの両面で支えてきた歴史がある。

現在も、ゲノム研究などを行う「先端酵素学研究所」や、最先端の光科学研究を行う「ポストLEDフォトニクス研究所」といった徳島大学の教育研究組織が、地域の新産業の創出と人材育成における重要な役割を担っている。

【高度な研究力】中国四国地方で最大規模の理工系教育を展開。
【高度な研究力】中国四国地方で最大規模の理工系教育を展開。

高度な研究力で育成するAI時代を生き抜く人材

徳島大学は理系領域を幅広くカバーしており、2つあるキャンパスのうち、蔵本キャンパスは医学部、歯学部、薬学部など医療系の学部が揃っている。日本で唯一、医学部に属する医科栄養学科も蔵本キャンパスにある。常三島キャンパスには、総合科学部、理工学部、徳島大学で約30年ぶりに新設された生物資源産業学部がある。

両キャンパスは比較的近い場所にあるため、チーム演習や共同授業などの教育面だけでなく、学部の垣根を越えた医光融合研究など、研究面でも学部間の連携を行っている。また、6年制の医学部医学科には、4年次終了後に大学院へ進学し、博士号を取得して5年次に戻るMD-PhDコースがあり、若いうちに研究力を磨くこともできる。

2018年度の科学研究費助成事業分配額において、徳島大学は全国の大学中22位である事実からも、研究に力を入れていることがわかる。「人工知能やロボットが発達すると、今ある職業が社会から消えていく。そのとき求められるのは、自ら課題を設定し、イノベーションによって解決に導ける人材です」と野地澄晴学長は説く。

ソーラーカープロジェクトでは、学生の自由な発想と活力が結実。
ソーラーカープロジェクトでは、学生の自由な発想と活力が結実。

地域から世界へ イノベーションを広げる

日本版ランキング2019で徳島大学は、優れた教育環境の指標となる「教育リソース」のスコアが高かった。その背景に、地域の潤沢な経済力と産学連携の気風を原動力に、数々のイノベーションを起こしてきた歴史と実績があることは間違いない。学生たちの自主的な研究活動を支援する「イノベーションプラザ」も、そうした強固な教育研究の基盤の上に開設されたものだ。

ここではデザイン思考の手法を用い、研究シーズを現実の課題と結びつけ、新たなアイデアの創出を図る。「ソーラーカー」「阿波電鉄」「ロケット」などをテーマとした学部横断の学生プロジェクトが多数、立ち上がっている。徳島大学が独自に立ち上げたクラウドファンディングサイト「OTSUCLE(おつくる)」への挑戦など、学生たちの新しい発想や技術を社会に実装する支援も、イノベーションプラザで行う。

2018年春に設立された、世界の問題を解決するための教育・研究の成果を社会実装する組織「徳島大学産業院」では、学生・教員がスタートアップの設立を目指す。大学全体の「世の中に新しいものを創り出そう」という雰囲気の中で、「研究が社会の課題解決に役立つことを身をもって知ることは、学生の将来にとって大きな意味があります」と野地学長は話す。

地域から興ったイノベーションは、やがて世界の諸問題を解決することにもつながると考えているため、徳島大学では世界へ羽ばたく学生を育てるグローバル教育にも力を入れる。

2017年には、学部教育の一貫した語学教育体制を構築。学生の目標・目的に合った語学力、コミュニケーション力、自己主導型学修力を養い、十分な語学運用能力を持つ人材を育成することを目的とした「語学マイレージ・プログラム」を導入した。学生が国際的な活動をするたびにポイントを付与するもので、一定のポイントを取得することが卒業要件にもなるため、学生は日々語学力の向上に努めている。

創立100周年を迎える30年後を見据え、徳島大学では先端研究とイノベーション教育をさらに推し進めていく考えだ。「基礎研究と新産業創出の循環を確立することが必要です。だからこそ今、社会の変化を先取りする教育・研究と起業が必要なのです」と、野地学長は力を込めた。

高度な研究力と産学連携の気風や実績から様々な取り組みを推進中
高度な研究力と産学連携の気風や実績から様々な取り組みを推進中
学長、理学博士
野地 澄晴
野地 澄晴
のじ・すみはれ
1970年福井大学工学部卒。80年広島大学大学院理学研究科修了。理学博士。82年から岡山大学歯学部、医学部で教え、92年徳島大学工学部教授。その後、大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授、図書館長、理事(副学長)と歴任し、2016年より現職。