リベラルアーツ教育が実現する人間としての成長

日本で初めて教養学部のみの単科大学として献学し、以来リベラルアーツ教育の草分けとして歩み続けてきた。

「リベラルアーツ」とは、文理の枠を越えて幅広く知識を得た後に専門性を深めることで創造的発想を可能にする教育を意味する。ICUでは、その実現のために必須の要素として、献学以来、二つの基本方針を踏襲、徹底してきた。

一つは、常に「批判的思考」を働かせながら「対話」できるように、少人数制の教育環境を維持していること。ここで言う批判とは常識や思い込みにとらわれない、議論の前提も含めて問い直すことであり、それにより思考が深まっていく。またICUでは学びの基盤として対話の姿勢を身に付けておくことを重要と考え、授業はもちろんのこと、それ以外の場でも対話を繰り返す。専任教員一人あたりの学生数19人という少人数制だからこそ可能になることだ。

2020年の春には、こうした教育の成果が思わぬ形で顕在化した。新型コロナウイルス対策のために授業をオンライン化した際に、学生の間で施設費の返還を求める署名活動が起こり、大学が返還は行わない旨を説明するメールを全学生に向けて発信した、という出来事があった。この時、学生の声に理解を示した上で、返還しない理由を丁寧に理論立てて述べた大学のメールに、学生の多くが納得し、SNSなどには、対話相手として学生と誠実に向き合う大学の姿勢にも信頼の念が綴られた。学修者の高い教育満足度はこうしたことにも起因するのだろう。

二つ目は「日英バイリンガリズムの徹底」だ。ICUでは学内の公用語を日英2言語に設定し、授業はもちろん学内のすべての活動をバイリンガルで行っている。多様性を持つ仲間と共通理解、相互理解を図るためには、英語で考える力を養うことが必要だ。そこで、日本語を母語とする学生には入学後の導入教育として、ELA(English for Liberal Arts Program、リベラルアーツ英語プログラム)を必修としている。ICUの学びに必要な英語運用能力と批判的思考を養うこのプログラムにより、学生は苦労しながらも世界に通用する英語力を身に付けていく。
 
さらに近年は、+1言語のトリリンガル育成を進めている。日英以外の言語を学ぶことで背景にある文化や思考を知り、より広い視野で考えられるようになる。

【リベラルアーツ教育】GLAA:Global Liberal Arts Allianceに日本で唯一加盟している
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広く、深い学びにつなげる3学期制とメジャー制

ICUのリベラルアーツ教育には、「3学期制」と「メジャー制」という二つの大きな制度上の特徴がある。

一般に多くの大学では2学期制をとっているが、ICUでは1年を春・秋・冬学期の3学期に分けている。各授業は学期ごとに完結するため、授業の多くは週に複数回行われ、学生はそれぞれのテーマを短期集中的に深めることができる。また、2学期制の大学が1年や半期に1回行う科目選択の機会が3回あることになるので、学ぶ過程で生まれる興味・関心に合わせたカリキュラムの幅が広がるというメリットもある。

ICUには現在31のメジャー(専修分野)があるが、その中から学生が専門を決定するのは2年次の終わりだ。2年間さまざまな分野の科目を履修し、その実態を知った上でメジャーを決められる。実際、入学時とメジャー選択時で希望が変わる学生は多い。また、選択できるメジャーは一つに限らない。二つの分野を同等に組み合わせるダブルメジャー、比率を変えたメジャー、マイナーという履修方法もある。教養学部1学部のみの単科大学だからこそできる柔軟なシステムといえる。

「本学では一つひとつの専門も全てリベラルアーツの中にあります。メジャーを学ぶ時にも、すぐそばには分野を異にする人がいて、その人たちに自分の考えを説明する必要が生じる。このように常に俯瞰し、全体の中で自分がどのような立ち位置にいるのかを意識することは、国際性を身に付けることにもつながります」。岩切正一郎学長は、これこそが国際的社会人の育成を目指すICUのリベラルアーツの特徴なのだと強調する。

【ELA】少人数クラスで一人ひとりに合わせた丁寧な指導が行われる
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使命として引き継がれる国際的社会人の育成

歴史を遡ると、ICUは1949年、第二次世界大戦への反省から、キリスト教精神に基づき、人類平和のために貢献できる国際的社会人の育成を使命に創建された。国際公務員を多数輩出するなど、世界で活躍する卒業生が多いのは、その使命がしっかり引き継がれてきた証といえる。

2011年には、学部4年と大学院1年の5年間で、学士と修士の学位を取得できる5年プログラムを導入。2019年には、ICUならではのリベラルアーツの素養を持ったプロフェッショナルを育成するため、外交・国際公務員やIB(国際バカロレア)教員を目指す3コースをスタートさせた。国際社会で活躍を志望する学生の選択肢を広げ、国際的リーダーの育成にも寄与するプログラムだ。

岩切学長はwithコロナの時代を見据え、この先のリーダーには、文化や教育など、数字で表せない資本も含めて、人間が幸せに生きるのに何が必要か見極めて投資し、新たな価値を創造することが求められるはずだと語る。分野の垣根を越えて広く深く学ぶリベラルアーツが果たす役割は、さらに大きくなりそうだ。

【多様性の重視】学生の出身国は世界52カ国にも及ぶ。
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学長
岩切 正一郎
岩切 正一郎
いわきり・しょういちろう
1959年宮崎県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。文学修士(東京大学)。1996年助教授としてICUに着任。2007年教授。その後、教養学部副部長、アドミッションズ・センター長、教養学部長を経て、2020年4月に学長就任。専門はフランス近・現代詩。戯曲翻訳などを手がける。蜷川幸雄の演出作品『ひばり』と『カリギュラ』の翻訳を担当し、第15回「湯浅芳子賞」を受賞。