留学生市場と労働市場に与える影響

今回発表されたランキングは、「国際的な影響力を持つ外国の機関が、日本の大学について初めて本格的に調査した結果」という点にインパクトがあります。
 これまで日本の大学は、日本人や日本語で学びたい留学生を固定客とした成熟市場に依拠してきました。自学の情報を海外に発信する必要性がありませんでしたし、発信のための適切なメディアもなかった。そのため、海外からは日本の大学の特長はほとんど見えませんでした。それを目に見える形にしたのが、今回のランキングでした。結果が世界に発信されたことで、日本への留学に関心を持っている学生、特に理工系の大学院生は注目するのではないでしょうか。日本で研究を希望する海外の研究者が参考にする可能性もあります。ランキングは国際市場に日本の高等教育をアピールするよい機会になり得るでしょう。
 一方、労働市場への影響も想定されます。日本の企業は今、研究開発をベンチャー企業に出すなど、オープン・イノベーション化を進めています。大学で研究開発をできる人材をしっかり育てることが、より一層求められるということです。採用が入学時の学力偏重から教育力重視へと、変わる後押しにもなるでしょう。

最終ユーザーである学生の利益のために

ランキングの指標の分野については、配分のバランスが取れているという印象を持ちました。特に「教育リソース」は、これまでの偏差値重視のランキングでは、軽視されていた部分。ここに光が当たったのはよかったと思います。
 国際的に見ると、教育リソース、特に教育資金は最も重視されています。米国のトップクラスの私立大学は、非常に高額な学費を取っていますが、実際はそれでも資金が足りず、寄付金を集めて教育を行っています。日本でもランキングがきっかけになり、社会全体に「きちんとした高等教育を行うには、資金が必要である」という認識が進めばと考えます。
 今後、このランキングに問われるのは一貫性と信頼性でしょう。この先、何を大事にしてこのランキングが作られていくのか、心配な点でもあり、楽しみな点でもあります。THEはジャーナリズムですから、常に新しい世界を切り開こうとするはずです。
 加えて、世界のグローバル化は進んでいきます。指標の項目は今後も変わっていくでしょう。評価を受ける側である大学としては、指標の分野や項目、配分が変わらないほうが戦略を立てやすいのですが、その変化は刺激として受け止めたほうがよいでしょう。
 大学ランキングの最終ユーザーは学生です。学生は、「自分が入学を希望する大学で、どのような教育を行っているのか、入学するまでわからない」という弱い立場にあります。このランキングには、学生にとって有益な信頼性、公共性の高い情報を提供し続けることを期待します。

東北大学 IR室・室長
米澤 彰純
米澤 彰純
よねざわ・あきよし
東京大学大学院教育学研究科博士課程中退、東北大学より博士(教育学)取得。東京大学助手、経済協力開発機構コンサルタント、広島大学、大学評価・学位授与機構、東北大学准教授、名古屋大学准教授を経て現職。専門は、教育社会学。高等教育、高等教育政策・質保証・ガバナンスなどのマクロな国際比較を得意とする。