ランキングに対する「たかが」と「されど」

 大学経営に携わってきた者として、大学ランキングには「たかがランキング、されどランキング」というスタンスを取っています。
 「たかが」という評価は、「既存のランキングは大学の研究力、教育力を測るものとして十分ではない」と考えるからです。THE世界大学ランキング日本版を見ても、項目やスコアの算出方法にはまだ改善の余地があると感じました。
 一方で、「されど」という認識もあります。現実として各種大学ランキングはさまざまな分野で用いられており、ブランド力もあります。国際的な影響力が強いこともあるので、大学としては無視することはできません。こうした大学ランキングがなくなることは考えられませんし、今後も、さらに多様なランキングが出てくると考えられます。
 ランキングの多様化は大学にとって、「複数の観点から自学の特徴を認識できる」というメリットをもたらすことになるでしょう。とはいえ、THE世界大学ランキングを見ると、年によって指標や算出方法に変更がありますから、大学は短期的な順位の変動に振り回されるべきではないでしょう。急激に順位の変動があった場合、指標の変更が大きく影響したと考えたほうが妥当だからです。結果に一喜一憂せず、今後の戦略を考えるうえで、自学の総合的、かつ継続的な傾向を把握するために使うのです。ベンチマークしている大学と比較し、自学の強み、弱みを相対的に分析するのには、こうしたランキングは有効なツールになると思います。

長期的な視野で戦略立案を

 今回、総合ランキングでトップ11に入った大学は、*RU11の大学と重なり、いずれも伝統的に社会的な評価が高い大学が多いように見受けられます。特に高校教員や企業、研究者への評判調査から算出される「教育満足度」「教育成果」の評価が高い大学が上位を占めています。日本社会の中での大学に対する主観的な評価は、短期間で変えるのは難しいと考えられます。それを5年、10年というスパンでどう変えていくのか? 大学経営者は、長期的な視野で将来の戦略を立てる必要があります。それには、まず現状分析こそが重要です。多様な大学ランキングの中から活用できる部分を判断し、分析に役立てるとよいでしょう。
 これからの国民国家の命運は、科学技術人材の育成と、グローバル企業の育成にかかっています。前者は理工系での、後者は人文社会系での人材育成が鍵です。これには、「日本の発展のためには人材しかない」という議論を再度強調し、国民意識を改革することも大切でしょう。追い上げ激しい中国やインドなど新興国の中で、日本は今後、どのような地位を占めて、生き残っていきたいのか、その中でどのような大学、労働力が必要とされるのか? 議論を深めることが重要です。

*研究およびこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、世界の中で学術の競争を続けてきている大学のコンソーシアム。東京大学、早稲田大学など、11の大学で構成。

早稲田大学元国際担当副総長
内田 勝一
内田 勝一
うちだ・かついち
1970年早稲田大学法学部卒業、1975年同大学院法学研究科博士課程修了。1984年早稲田大学法学部教授、2004年国際教養学術院教授。国際教養学部長、副総長(国際担当)を歴任。日本学術会議会員、日米研究インスティチュートプレジデント等を歴任。専門は民法・土地法。主著として、「現代借地借家法学の課題」「債権総論」等。