Q 国際協力の仕事を選んだきっかけやコペルニクでの活動など、中村さんご自身の経験についてお聞かせください。

 高校生の時に、冷戦の終結という大きな出来事が起こりました。それまで分断されていた世界がオープンになり、平和になっていくのだと、世界中の人々が希望を感じていたものです。しかし、実際には、地域の紛争など、さまざまな問題が新しく発生しました。
 国連への期待が高まっていた時期と言ってもいいでしょう。国連では、国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんをはじめ、日本人の活躍も目立っていました。
 このような時代の動きをリアルタイムで見て、「やりがいがありそう」「自分も、こんな仕事をやってみたい」と感じていました。
 国際連合の国連開発計画(UNDP)で働き始めて、国際協力への一歩を踏み出しました。27歳の時、東ティモールで、当時はまだ整っていなかった国家としての制度や機関、例えば憲法や省庁、司法制度を作るというプロジェクトを任されました。これは、かなり重要なプロジェクトだったうえに、着任した当初は問題が山積みでした。しかし、課題を一つひとつひも解いていくと、政府の反応も良くなり、支援金を募っていた各国からの評判も良くなってきました。このような経験の中で、国際協力の仕事は「自分がやるべき仕事」だと実感したのです。
 その後、コペルニクを設立し、現在も代表を務めています。コペルニクでは、開発途上国の課題に対して、民間企業の力を取り入れながら解決策を探していく活動をしています。わかりやすく言うと、企業でいうところのR&D(研究開発)のような活動です。
 例えば、農業分野で「穀物を乾燥させるプロセスが非効率である」という問題があるとします。この問題に対し、具体的に解決できそうな技術やアプローチを集め、実際にデータを取って、本当にこれらの方法が解決に有効かどうかを確かめます。そして、いいソリューションは、別のNGOや地元の政府、援助機関などと連携し、多くの場所で使われるように広める活動も行っています。これまでに、農業、衛生、エネルギー、環境保全、教育、小規模ビジネスの支援など、さまざまな分野で活動してきました。

Q 国際協力の仕事には、どのような「大学の学び」が役立つでしょうか。

 大学で過ごす数年間は、自分の好きなことができる、貴重な時間です。アンテナを張って、直感的に「取り組みたいこと」にチャレンジしたいですね。たとえ失敗しても、アプローチを繰り返すうちに、進みたい方向性も定まってくると思います。
 私自身は、京都大学法学部に通っていたころ、部活動(ラクロス)に力を入れていました。そこで得た体力は、国際協力の現場でも役立ちました。
 周囲は司法試験を目指す学生が多く、私の父も弁護士でした。しかし、私には高校時代から「国際協力の現場で働きたい」という思いがありました。
 実は、高校生の頃、海外の大学に進学したかったのですが、実現しませんでした。今でこそ、海外進学や大学での留学は、選択肢の一つになっていますが、当時は、海外の大学を出ても就職できないかもしれないと思われていたのです。現在は国際交流や海外留学のプログラムが多く、学生にとって、海外で学べる機会が豊富なのはいいことだと思います。
 また、学生が社会での経験を積めるような活動も大切です。コペルニクではインターンシップを実施しているのですが、社会人経験のあるインターンと、そうでない学生とでは、やはり言動が違います。組織を回す立場では、指示待ちせず、自分で考えて動いてくれる人をありがたく感じます。社会に出る前に、働くことを意識した活動をした学生は、社会人としての動き方が変わってくるでしょう。

Q 「THE大学インパクトランキング」の意義は何でしょうか。

 THE大学インパクトランキングは、国連のSDGs( Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に紐づいた指標で、大学の社会貢献度合いをランキングにしています。私は、国連時代、SDGsのもとになったMDGs(Millennium Development Goals=ミレニアム開発目標)に関わっていました。SDGsが世間に浸透している現状を目の当たりにするのは、とても感慨深いものです。
 学生時代にはアンテナを張って、自分が直感的に「探求したい」と思えるような「自分のテーマ」を見つけられるといいでしょう。インパクトランキングは、高校生が「自分のテーマ」を見つけるための、一つのきっかけになる可能性があります。 私が志望校を選んだ時代は、両親や学校、塾からの情報をもとに進学先を考えるしかありませんでした。今の高校生には、たくさんの情報から吟味してほしいと思います。単純に「自分の偏差値で合格できそうな大学に行く」というのでは、面白くありません。自分は「世界のどんな課題に興味があるか」「どういうところで楽しめるか」ということを、インパクトランキングを見ながら考えてみると、いいかもしれません。
 志望校を選ぶ際は、独自の個性が目立っているかどうかを基準にするのが良いと思います。偏差値で決めるのではなく、その大学独自のカリキュラムやプログラムなどに引かれ、親和性を持つ生徒が、その大学を志望すればいいと思います。インパクトランキングのように、大学が力を入れているポイントがわかる取り組みに期待します。

コペルニク 共同創設者兼CEO
中村俊裕
中村俊裕
なかむらとしひろ
京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院にて比較政治学修士号取得。国連機関、マッキンゼー東京支社のマネジメントコンサルタントなどを経て、2010年にコペルニクを共同創設。援助が最も届きにくい地域(ラストマイル)に、現地のニーズに合った製品やサービスを提供するための活動を行う。