「データサイエンティスト」の需要を高める社会の情報化

 近年、ICTは、とめどなく進化を続けています。さらに、インターネットを利用した買い物や移動といった人々の行動の記録、SNSでの発言など、多くの情報がビッグデータとして蓄積され、それらを取り扱うマーケティングがトレンドとなっています。  
 それに伴い、膨大なビッグデータを、使えるように整えるデータサイエンティストの需要が高まっています。データサイエンティストには、機械学習、コンピュータサイエンス、統計学、数学、そしてビジネスに関することなど、多くの知識が求められます。
 データサイエンティストは、金融、交通・流通、IT、サービスなどの様々な業界で需要があります。現代社会では、社会の幅広い領域でデータを扱うことのできる人材が求められています。そのため、データサイエンスの基本的な素養は今後、データサイエンティストでなくても、文系理系を問わず身に付けるべき能力だといえます。また、ICTの進化とともに、今後もデータサイエンティストの需要は高まっていくと予測できます。

データサイエンス教育に力を入れる日本の大学

 データサイエンティストの需要の高まりとともに、データサイエンス教育に力を入れる大学も増えてきています。日本の大学の中で、2019年度、大きな改革を行った3つの大学を紹介します。

■全学生向けのデータサイエンス教育:北海道大学
 北海道大学では、2019年度から「数理・データサイエンス教育プログラム」を開始しました。このプログラムのうち「一般教育プログラム」は、文系理系問わず、全学生が履修することができます。学生は、データサイエンスの基礎となる統計学、情報学、数学を学びます。
 さらに、2020年度からは、新たに2つのプログラムを開始します。1つは、一般教育プログラムの次のステップとして、社会、数理、生命などの分野からデータサイエンスを学ぶ「専門教育プログラム」です。もう1つは、学生が取り組む卒業研究のテーマの中で、データサイエンスに関する知識やスキルが必要な部分について、データサイエンス指導教員(DS指導教員)が家庭教師のように短期間の個別指導を行う「実践教育プログラム」です。
 これらのプログラムにおける効果的・効率的な教育の実現のため、ICTを用いた数理・データサイエンス教育プラットフォーム「MDSプラットフォーム」が開発されました。学生は、プラットフォームにある、ブラウザ上で演習ができるツールや、練習に役立つデータ集などを利用することができます。
 2017年度、北海道大学は文部科学省「数理及びデータサイエンスに係る教育強化事業」の全国6拠点の1つに選定されました。さらに、2018年度には、修士レベル対象の「超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業」および博士レベル対象の「データ関連人材育成プログラム(D-DRIVE)」で、北海道大学を中心とした取り組みが採択されました。北海道大学は、これからもデータサイエンス教育の第一線を走っていくことが予測されます。

■1年次から実践的にデータサイエンスを学べる:兵庫県立大学
 兵庫県立大学では、2019年4月、経済学部と経営学部を再編し、「国際商経学部」と「社会情報科学部」の2学部を開設しました。
 このうち「社会情報科学部」は、社会科学と情報科学との文理融合教育により創造的な人材を育成することを目的としています。社会科学と情報科学を両輪とするカリキュラムで、データ分析力だけでなく、データの社会背景を正しく把握し、分析結果を実社会に活用するスキルを養います。カリキュラムには、理系の科目だけでなく、経済学や会計、経営学などの文系科目も多く含まれています。
 また、社会情報科学部の特徴として、1年次から少人数制の演習科目が設置されていることが挙げられます。学生は、企業や公的機関など様々な組織から提供される実際のデータを分析するため、組織が抱える現実の課題解決に取り組むことができます。
 そのほかにも、企業から提供された実際のデータを使用して課題発見・課題解決に取り組むPBL演習や、最先端の情報技術やビッグデータ解析に関して、最前線で活躍している企業・研究機関のゲスト講師から現場について学ぶ授業などがあり、実践的にデータサイエンスを学ぶ環境が整えられています。

■データサイエンスとグローバル教育で活躍できる人材に:東京都市大学
 東京都市大学では2019年4月、知識工学部の「経営システム工学科」を「知能情報工学科」に名称変更し、情報科学にスポットを当てた改革を行いました。さらに、2020年4月には知識工学部から情報工学部に学部の名称を変更する予定です。
 知能情報工学科では、AI(人工知能)や人間、社会、組織、ネットワークなどの分野で、データ分析とICT活用により新しい価値を創造する先進的技術者の養成を目的とし、カリキュラムを編成しています。具体的には、1年次に、知識工学部共通の数学や理科などの科目と、プログラミングや統計など学科教育の基礎となる科目を学修し、2年次からは「大規模データ解析」「人工知能」「人間情報システム」「産業システム」「知的経営システム」の5つの専門科目群で、専門性を高めます。
 また、知識工学部では、2019年度より、すべての学科に「国際コース」を設置しました。ここでは、教養科目、基礎科目、専門基礎科目を含め、卒業に必要な単位の3分の1以上を英語で学びます。2年次には、約4か月間、オーストラリアのエディスコーワン大学に留学します。データ分析力だけでなく、語学力、異文化理解の面でも、現代社会で必要とされる人材を育んでいる学部だといえます。

 今回、紹介した北海道大学、兵庫県立大学、東京都市大学の3大学は、THE世界大学ランキング日本版2019において、総合ランキングだけではなく、どれだけ卒業生が活躍しているかを表す「教育成果」分野のランキングにもランクインしています。「教育成果」は、企業人事や研究者の評判をスコア化したものであるため、社会の動きに合わせた新しい取り組みが、「教育成果」のスコアにも表れたのではないかと考えられます。
 3大学がランクインしたランキングについては、記事下の関連リンクをご覧ください。