グローバル人材育成のために徹底的にこだわった「教育の質」

秋田空港から車でおよそ10分、市街地の喧騒から離れた緑の中に、国際教養大学のキャンパスが広がる。学内にこそ学食や売店、カフェがあるが、一歩学外に出ると付近に娯楽施設はおろか、コンビニやファミレスもない。しかし、「隔離」されたキャンパス内では、厳しくも充実した大学生活が待っている。

国際教養大学では2004年の開学当初から、「全員留学」「授業はすべて英語」を徹底してきた。キャンパス内では約800名の学部生と、毎年受け入れる200名以上の交換留学生とが、教室で机を並べるだけでなく、部活動や寮生活といった日常のあらゆる面を共にするのだ。共通言語は、自然と英語になる。

授業は予習が前提となっていて、多くの時間がディスカッションにあてられる。知識を持っているのは当たり前で、それに基づいた自分なりの考えを、英語で発信することが求められるのだ。成績には試験の点数のほか、授業への参加度も反映されるため、受け身ではいられない。

きわめつけは、必修となっている1年間の海外留学である。世界の一流大学で専門課程の授業を履修し、卒業単位として認められるために、学生たちは相応の成績を収めなければならない。

「苦労しない学生はいません」と言う鈴木典比古学長の言葉は、50〜60%台という4年卒業率が証明している。「留学経験や、英語でのコミュニケーション能力はあくまでプロセスであり、ツール。学生が人間力を磨き、世界に通用する人材として巣立ってもらうのが大学の使命」と学長は語る。

中嶋記念図書館は、学生向けに24時間365日開館している。
中嶋記念図書館は、学生向けに24時間365日開館している。

厳しさだけではない、学生に人間的成長を促す舞台裏

常にハードワークが求められる国際教養大学での生活について、学生たちは前向きだ。英語漬けの毎日も勉強の厳しさも自分のためだと受け止め、プラスに評価しているようだ。退学率も3.0%と低い。

日本版ランキングでは2019年から、「教育充実度」の指標に「学生調査」が加わった。在学生の声を反映したこの新しい指標の影響で、各大学の「教育充実度」順位は大きく変動したが、国際教養大学は2018年に引き続き第1位を獲得した。

その背景には、入学直後に学術英語を徹底的に磨き上げる「英語集中プログラム」、学生一人ひとりに付いて学修や進路相談、留学先の履修計画まで支える「アカデミック・アドバイザー」という教員の存在、留学手続きや生活面での相談・指導に対応する「留学コーディネーター」と呼ばれる職員の存在など、制度的な支援がある。

だが、制度以上に重要なものがある、と鈴木学長は強調する。「大学生活のあらゆる面において、『自ら困難を乗り越えて得る成長実感』と、『自身のさらなる成長への期待』こそが、本学の学生の原動力となるものです。教職員はその気づきを促すファシリテーターにすぎません」。

毎学期の履修科目、生活環境、留学先での学修内容、慣れない海外での生活、帰国してすぐ始まる就職活動……国際教養大学での学生生活は、選択の連続である。その一つひとつの重みを理解しているからこそ、学生たちは内省と他者との関わり合いを重ねていく。大学は学生ごとに適切なアドバイスを行い、本人の自発性や自主性を尊重しながら、一歩踏み出して新しいことに挑戦する勇気を支えてきた。「教育充実度」第1位は、その成果でもある。

アカデミック・アドバイザーがあらゆる面で学生を支援する。
アカデミック・アドバイザーがあらゆる面で学生を支援する。

全国の企業が求める「ここにしかいない」学生たち

この地方の小さな公立大学に、毎年、全国から企業が就職説明会のために訪れる。その数は、就職希望者数を上回るおよそ200社。企業が秋田まで足を延ばすのは、国際教養大学の「教育の質」を認めているからにほかならない。「勉強や英語ができるだけの学生なら他にいくらでも見つかるが、この大学には『ここにしかいない』学生がいる。困難を承知の上、自分の意思で秋田を選び、純粋に努力し、行動できるような若者が、これからの時代には必要である」というのが、ある採用担当者の言葉。就職率100%は、結果としてついてきた。

「学生の自助努力を強く促す教育制度」「その成長を支える教職員の存在」、そして「異文化環境の中で他者と関わり合いながら築いた自らの『個』」。企業が高く評価する国際教養大学の学生気質は、これら3つの要素が作り上げる、豊かな人間力といえるだろう。今後もそうした「全人力教育」に全学を挙げて取り組んでいく。

多様な価値観を受け入れる人間性が育まれる多文化共生キャンパス
多様な価値観を受け入れる人間性が育まれる多文化共生キャンパス
学長、経営学博士
鈴木 典比古
鈴木 典比古
すずき・のりひこ
1945年栃木県生まれ。1978年インディアナ大学経営大学院博士課程修了、博士号を取得。ワシントン州立大学助教授・准教授、イリノイ大学助教授を経て、1986年から国際基督教大学にて準教授、教授、学務副学長を歴任。2004年〜2012年は同大学学長を務める。2013年から現職。経営学博士。