2大学のキャンパスをつなぐ新カリキュラムが誕生

世界有数の経済圏、東海エリア。その基幹大学である岐阜大学は、名古屋大学と法人統合し、東海国立大学機構を創設した。自治体・産業界との強い結びつきのもと、世界最高水準の教育・研究環境を整え、国際社会と地域創生へ貢献することを使命としている。こうした挑戦は最新の日本版ランキング結果にも反映され、前年と比べて総合で9ランク上昇した。

東海国立大学機構の取り組みで、まず特筆されるのが、世界トップクラスの研究による「知の拠点化」だ。「航空宇宙生産技術」「糖鎖科学」「医療情報」「農学」の4拠点を整備し、産業界とも連携しながら、未知領域の解明と最先端の技術開発に挑む。2021年4月には航空宇宙生産技術の開発センターがオープンした。東海エリアは航空宇宙産業の一大集積地であり、本拠点はその中心を担っていくと期待される。また、癌や感染症治療などの鍵を握る糖鎖科学の分野においても、オーストラリア、カナダ、フランス、台湾の大学と連携したコンソーシアムを形成し、大規模な共同事業を展開している。

加えて、国際社会に通用する人材の育成を目指し、教育にも力を注ぐ。岐阜大学・名古屋大学の基礎・専門教育を結びつけ、共通カリキュラムとして提供する組織「アカデミックセントラル」を設立。2020年度は新たに、両大学からオンラインでの参加が可能な科目として、英語による講義「Studium Generale」と、「数理データサイエンス」をスタートさせた。

Studium Generaleでは、講師がわかりやすい英語を用いて多様なトピックスを解説し、その様子をライブ配信して両キャンパスをつなぐ。一方、数理データサイエンスでは、ロボットや人工知能などの新技術が重用される時代において必要な、データを扱う基礎力を育成。企業の実例をもとに課題を把握した後、どんなデータをどのように使えば解決できるのかを教える。森脇久隆学長はこう話す。「データを扱うスキルは文系・理系問わず求められています。本科目ではアシスタントとして大学院生が参加し、学生の学習をきめ細かくサポートしているので、ぜひ文系の学生にも受講してもらいたい」。現在、より高度なデータサイエンスを学ぶための応用プログラムを開発中だ。

2021年春から開始したオンライン留学プログラム説明会。
2021年春から開始したオンライン留学プログラム説明会。

オンライン留学がスタート 国際交流の新しい形が好評

新型ウイルスに翻弄された2020年。岐阜大学は対面での講義が困難と判断すると、即座に遠隔操作システムを活用したオンライン講義や実習の導入に踏み切った。海外への渡航が制限される中、2021年春にはオンラインでの留学プログラムを開始。学生は、岐阜大学が協定を結ぶ海外の大学とウェブ会議システムで繋がり、各国から参加する学生と共にリアルタイム講義とオンデマンド配信による自宅学習などに取り組む。課外活動としてオンラインキャンパスツアーなどのワークショップにも参加でき、学生同士の交流も可能だ。また、2021年夏には理系の学生を対象に同様のプログラムを提供。研究者・技術者に必要な英語でのレポート作成スキルやデザイン思考などを身につける内容で、専門の近い海外学生とペアになって意見交換を行う機会も設けられる。「オンライン留学は、日本での学生生活を継続しながら参加できる柔軟性、アクセシビリティ、低コストなど多くのメリットがあります。将来、実際に海外留学するための準備としても大変意義があります」と留学推進部門長の嶋睦宏教授は話す。

もう一つ、新たな国際交流の試みとしてインド工科大学グワハティ校、マレーシア国民大学、岐阜大学の学生が、ウェブ会議システムを介して、国際交流を活性化するためのPR動画を共同で制作する「Collaborative video making program」を実施。3大学混成で4人1組となり、ディレクター、アクターといった役割を担いながら、約3ヶ月かけて遠隔で作品を完成させる。「制作のプロセスで得られるのは、国籍が異なるメンバーと試行錯誤しながら、責任を持って何かを成し遂げるという実践的な経験です。社会に出た後、大いに役立つでしょう」と発案者であるグローカル推進機構・松井真弓特任助教は言う。学生のコミュニケーションはすべて英語となり、直接会えない環境ではいつも以上に綿密なやりとりが必須となる。実際、開催後の参加者アンケートでは、「海外の人と関わることに対して自信を得た」「成長を実感した」といった声が各国から寄せられている。

各国の学生と繋がる「Collaborative video making program」
各国の学生と繋がる「Collaborative video making program」

対面とオンライン授業のベストなバランスを追求

岐阜大学では、大学教育は知識習得のみを目的とするものではなく、事象に対する判断や考え方を深く学ぶことができる対面授業は大学教育の根幹を成すと考える。一方で、オンラインの活用を教育の質を高める機会と捉え、国際交流に限らず、継続していく方針だ。例えば、国家試験合格を目指すような知識習得型の講義では、繰り返し視聴できるオンデマンド配信が効果的であり、今後も、対面とオンライン教育のベストバランスを追求していく。変化に柔軟に対応し、確かな実行力で進化を続ける岐阜大学。「東海国立大学機構が本格的に始動し、地域、そして世界との強固なつながりを生かした教育・研究環境はさらに深みを増しています。ぜひ、全国から学びにきてほしい」。そう森脇学長は胸を張る。

海外留学プロモーション動画を配信中。
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学長、医学博士
森脇 久隆
森脇 久隆
もりわき・ひさたか
1976年岐阜大学医学部卒業、1984年医学博士取得。1988年より岐阜大学医学部にて講師、助教授、教授と歴任し、2006年国立大学法人岐阜大学医学部附属病院長に就任。2014年より現職。専門は内科学、消化器病学、肝臓学、腫瘍学。織田賞(日本肝臓学会賞)、日本ビタミン学会賞など受賞歴多数。